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真山青果「京都御構入墨者」・「人斬り以蔵」

『真山青果全集第八巻』(講談社:1976年)に収録されている 『京都御構入墨者』と『人斬り以蔵』の感想を。岡田以蔵を主人公にした最初の文学作品ですね。

以前の記事でも書きましたが、『京都御構入墨者』の主人公の方は岡田以蔵をモチーフとしていますが、作中の人物名は「野添 於莵馬」となっています。
以前私は、歴史小説の類は史実が気になるので娯楽性を感じられないと言いましたが、未完作品であるこの『京都御構入墨者』の方は割と面白かったです。
史実に忠実に描かれているわけではありませんが、色んな小ネタをあちこちから拾ってきてあって、諸藩の思惑渦巻く京洛の感じがいきいきと描写されていました。叩き台になるストーリーが無い状態でここまで書くために、史料を調べを頑張った真山の努力の形跡が窺われるような。ただしこれは中途半端な所で終わり、未完作品になっています。
ちなみに以蔵が主人公の作品では悪役ポジションが定番の(わーイラッとするw)武市先生は大事な行事に遅刻した以蔵を擦れ違いざま無言で一瞬睨んだだけで退場、龍馬は以蔵に勝海舟の護衛を頼み「俺を利用しようとするな!」とか以蔵にゴネられる役回り。

そしてお次が『人斬り以蔵』。

登場人物は岡田以蔵、以蔵の架空の妹・百世、架空の土佐勤王党員・磯矢楠馬。
三人で毒酒を飲んでワーワー騒ぎながら死んでいく一幕物の戯曲です。

百世「あ、楠馬さん…!(と縋りとヾめ)兄さん、百世はもう眠ります。一言、一言…、兄さんも勤王の同志であつたと、私の耳に…聞かして下さい」
以蔵「馬鹿を云へ!(やっと庭木戸に縋り付き、伸び上って)死ぬから云はれんのぢゃ。おれは人間總體のために、殿様なんてやつを…嘲笑って見せる。侍なんてものは、先祖の働きを手柄に何百年…百姓をいぢめて食つて来た盗人だ。もらふ知行は先祖の位牌が貰うんだ。位牌知行だ!く、く、苦しい、水…」   (p.350)

全集の巻末で「左翼劇と気付かせない左翼劇」と指摘されていますが、確かにその通り。「おのれ~オレを虐げた封建社会め~」というノリですね。あとこっちでは「きっと龍馬が助けに来てくれる!」みたいな感じになってます。
ちなみに『竜馬がゆく』の以蔵は、竜馬の周辺を賑やかす道化のような役回りが与えられていますね。
史実の土佐勤王党関連を調べた上でこの話や、青果版を元ネタにした司馬遼太郎版『人斬り以蔵』を読むと、あまりに事実とかけ離れている、あり得ない、非常に荒唐無稽な内容に感じます。だって江戸時代の人間に、後世の価値観の中で生まれたテーマを設定して書かれた話なんだもの。
でもこれ読んで「なるほど!岡田以蔵はこういう人物だったのか!」と鵜呑みにしちゃう人いるんだろうなあ…。
ないわー。これはないわー。
これ以降、以蔵が出てくる作品はおおむねコレか司馬版のイメージを踏襲しています。

一方史実の話になりますが、松岡先生の妄想部分がオイオイな感じの『以蔵新伝』。

確かに武市先生と以蔵は仲良しでしたが、そんな何かにつけて以蔵が「武市先生…」とか考えてる気持ち悪い関係では無かったと思いますよ。その辺は他の門弟と同様に考えるべきでしょう。20代半ばを過ぎた大の男がそんなメンタリティを持っているとは現実的には考えにくいですし、着牢早々、以蔵が牢番に自慢話をしている当時の記録から見ても、そんなしおらしい性格の人ではなかったと思いますが(笑)

松岡先生に限らず他の作家や研究者もそうなんですが、なぜか瑞山と以蔵の師弟関係に対して妙な想像をする人が多いですね。伝わっている二人の人物像が正反対な所が原因なのかなぁ。
たぶんある人は「瑞山みたいな性格の人は、以蔵みたいな人間は軽蔑し嫌って利用価値が無ければ捨てるのだろう」と考えるのでしょうし、一方では「以蔵は武市瑞山みたいな人に心酔し何でも言う事を聞いたのだろう」と想像されるのでしょうね。
いずれも根拠のない想像です。

武市先生は深く慕われる逸話の多い人物でした。以前、武市先生の門弟たちが瑞山の師である上士・麻田勘七に、瑞山の優待周旋を求め、藩庁への推薦を訴え出た一件を紹介しましが、瑞山は色々と土佐人らしくない所のある人でしたので、一種の憧れを抱いている人もいたんじゃないかと思われます。
以蔵が特に親密な弟子だったわけではなく、瑞山が特に尊敬を受ける人物だったのです。
ようするに他の門弟と同じような、普通に仲の良い師弟関係だったと思うのですが。

史料の上では、以蔵は瑞山の親戚同様に扱われる立場の人間でした。
以蔵が旅先で体調を崩したことを知らされれば「不安心千万」と小笠原保馬宛の手紙にしたためていましたし、江戸での修行中も親戚の山本琢磨と共に以蔵の様子を家族(島村寿太郎)宛の手紙で知らせています。
以蔵の毒殺未遂は創作では有名なエピソードですが、史料上は以蔵が拷問での自白を反省し、強引に毒が盛られることもなく以蔵としては別に遺恨もなかったようです。
そもそも武市さんがそんな以蔵が主人公の作品にありがちなアレな性格の持ち主だったら、誰も慕いませんw
本当色々とありえないイメージがまかり通ってるんですよねー…。

天誅に関しても、これは一対一の果たし合いなどではなく、実際は集団リンチでした。
また五十嵐文吉の「天誅見聞談」からも分かるように、武を誇る機会を求める彼らはこぞってこれに参加しました。
当然、以蔵が仲間から“人斬り”と蔑まれるわけもなく。
『土佐偉人伝』で“其擧往々常軌を逸す”と言われる以蔵が、血の気の多さに関してどれだけ特殊だったのか史料上判然としません。ただ拷問で即座に挫けた所を見ると、自分より強い者には弱く、弱い物には強く出る性格だったのでしょう。要するに臆病者だったということは初期の史伝にも出てくるのにその辺は無視され、現在悲劇的なイメージがあるのは、創作のイメージがそのまま歴史上の人物のイメージになってしまうからでしょうね。

さて『以蔵新伝』第38回、「逮捕(上)」より。

子二十七歳 無宿鉄蔵

右者儀、二条東洞院西入糸商売幸次郎方え罷越(まかりこし)、高利貪(むさぼり)、難済(なんせい)、施財致すべし抔(など)、無体(むたい)申懸(もうしかけ)、金子押借(おしがり)致候始末不届に付

(元治元年5月の「科(とが)書」)
京都町奉行・小栗下総守指揮下の同心・斎藤安太郎によって処置された。

 二条東洞院近くの糸商売人宅へ押しかけ、高利貸し、脱税との因縁をつけて出資を迫る。鉄蔵こと以蔵が押し借りをしたとして逮捕されたのだ。

以蔵はなぜこのような行為に走ったのか。
『維新土佐勤王史』には「血気の勇はついに頼むに足らず、全く酒色のために堕落して、当初剣客なりし本分を忘れ、その乱行至らざる所なく、果ては無宿者鉄蔵の名を以て、京都所司代に脆くも捕縛せられぬ」とありますが、最終的に勝海舟や龍馬、土佐勤王党の同志、どこの庇護者からも見放された理由はこの辺にあると思われます。
そのため非合法的な手段で金銭を得なければいけなくなったのでしょう。

あと時期的にギリギリとはいえ定説では一応以蔵が関与しているとなっている池内大学暗殺が何の説明もなくすっ飛ばされたような…ええっ?
あまり根拠のない想像をあれこれ書くより、史料上何が判明していて、何が謎なのかをハッキリさせる方が重要だと思うんですが。
フワフワした書き方が目に付くのは松岡先生の中でも考えがまとまってない部分が多いからってのもあるんだろうなあ。

結論として実在の岡田以蔵に悲劇的な要素はありません。
創作にみられる「人斬り以蔵」という人間は実際にはおらず、ただの岡田以蔵という人物がいるだけです。
で、この人が何やったかと言えば、落ちぶれたあげくにただでさえ苦しい境遇に置かれている仲間をより苦しい状況に追いやった。殉難志士の護国神社への合祀申請の際、以蔵のみ申請を却下されたのもこのためでしょう。
要するにそれだけの人間です。
こんな土佐勤王党の同志を徒に苦しめ、師匠に対しては恩を仇で返しただけの人間に対して悲劇だの師への忠誠(そもそも勤王党のコンセプトからして師匠は忠誠を尽くす相手ではない)だのと実にウンザリします。

私の想像を述べると、武市さんは本当に生真面目でキッチリした人で、だらしない状況、間違った状態のものを放置したくない性格の人でしたから、以蔵に対しても何かと放っておけず、細やかに世話を焼いているうちに情が移っていたんだろうな…と思う。
最期は志節を失った以蔵の自白によって親族を含む同志が犠牲になり、以蔵とこれまで積み重ねてきた思い出も含めて彼の全てが嫌になってしまっていたんだと思います。かつて何かと親切にしたこと、さぞ後悔したことでしょう。以蔵が反省していた事、瑞山最後の獄中書簡で武市先生によろしく伝えて欲しいと言った事を知っていても、私はやはり以蔵に同情しようとは思いません。
大河ドラマなんかで以蔵が「武市先生~(泣)」などとメソメソし、とりあえず武市先生武市センセー連呼してさえいれば安易に同情買えるキャラになってたりするの、すんごいウザい。
女性も耐えた拷問で泣き叫んで即刻ペラペラ吐いた以蔵なんかに比べれば、瑞山の方が病苦と心労でよっぽどボロボロだったんだぞこらあああ!(怒)
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まとめteみた【aunn】

『真山青果全集第八巻』(講談社:1976年)に収録されている 『京都御構入墨者』と『人斬り以蔵』の感想を。岡田以蔵を主人公にした最初の文学作品ですね。以前の記事でも書きましたが、『京都御構入墨者』の主人公の方は岡田以蔵をモチーフとしていますが、作中の人物名は?...

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